2000.10.31号 07:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊
「食と生活の記録」より/by 西村淳


「12月だ」

12月に入ってすぐ「昭和基地」から病人が発生したとの知らせが入ってきた。詳しい病名等は「尿が出なくなった」以外は不明だったが、福田ドクターの見立てによると、「とにかく人間、入る所と出る所のトラブルが一番怖い・・・最低でも昭和基地での治癒は望み薄だと思うから、なんらかの手段で日本に早期帰国させるのが望ましい」との見解だった。

「しらせ」はまだオーストラリアのフリーマントルに停泊中だし、これと言った大きなトラブルもなく過ごしてきた38次隊だが、終盤に来てにわかに緊張度が高まってきた。幸い「ドーム越冬隊」は外見こそ、ホームレスよりも汚い状態の人と、アルコール依存症と、過食に悩んでいる人はいるものの総じてみな元気いっぱいだった。占星術と天のお告げにより、昼まで睡眠を取ることになった某機械隊員を除いて、朝から第2次観測旅行に備えての、レーションの積み込み及び整理を手空き総員で行った。

今回私は留守番だが、あの透き通るような爽快感と高揚感が懐かしい。ちょっとうらやましかった。午後からは、通信の「西平 盆隊員」が旅行に出るので、その間担当する無線機のレッスンを受ける。 「昭和基地」との定時交信等の喋る方は、アルコールをちょっと体に入れると、スラスラと出来ることがわかったが、根が真面目な盆はちょっと渋い顔をしていた。 メカニックの方は全然、ぜんぜーんわからなかった!!!どこかの配線がおかしくなれば、どこかをつなげればいいとまではわかったが、そのどこがわからない。 わかったふりをして、もしやばくなれば「昭和基地」に電話して代行業務を頼もうと密かに決めた。

モールス信号は、思いがけずボーイスカウト時代に覚えていたのでなんとかこなすことができた。何が役に立つかわからないものだが、小学校卒業から30年以上経過して「チカトーキ・ルールシュウセイス・へ」なんて事をやろとは・・・・。使い慣れない頭を使いすぎ、アミノ酸が減ってきたので、夕食は米沢牛のヒレ肉を使い、「ドーム名物 掟破りの韓国焼き肉」にした。良性の蛋白質を補給しすぎたせいか、夕食後の居酒屋「盆」では、アルコールを摂取したときだけ元気になる佐藤隊員に柄にもなく説教をたれた。「越冬終盤にさしかかった今、君ははたして胸をはって日本に帰れるか?? いすず自動車にメカニックとして大きくなって帰ってきたと言い切れるか???うだうだうだうだ」自分で喋っていても、昔の青春ドラマの様な臭いせりふにさすが恥ずかしくなってきた。

・・・が・・ふと気づくと佐藤隊員、目に涙を溜めてウルウル状態になっていた。言葉だけで人を感動させた記憶はあまりないので、覚えておきたかったがアルコールぼけした頭では2分30秒位しかハードディスクに溜めておけず、きれいさっぱり消去されてしまった。

ドーム名物・・・この後横の人は地獄を見た


注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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