2000.6.27号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊
「食と生活の記録」より/by 西村淳


「後半戦が始まった2」

7月3日、越冬開始以来最低気温を記録した。
ー76.0℃・・・・・・。マグロを保管する低温冷凍庫より低い気温である。寒さ、低温と言う言葉に慣れっこというか不感症と言うか、日常生活の一部になってしまっている隊員達は、あまりびっくりした様子もなく、淡々と日常生活を送っている。普段ー50℃前後を保っている雪洞に降りるとなんとなく温かく感じる!位が体感的に「あっ今日は寒い。」と実感できる位だった。ー30〜40℃位までは使用可能なウインター軽油、通称「W軽」がゼリー状に変化して使い物にならなくなり、「新南極軽油」と呼称されている、メーカーのキャッチコピーでは「ー80℃までは大丈夫」に変わったのもこの日だった。

食堂にあるホワイトボードには、1月までの大まかなスケジュールが貼られ、一番最後は「基地閉鎖作業終了 後発隊出発」で終わっている。ここまでたどり着くと、しらせ・生ビール・新しいビデオ・第一便・次の隊・シドニー・家族の笑顔・帰国とバラ色の日々が待っているわけだが、現実にはそれも半年後のはるか未来。まだまだ・・・・。寒い時の基地内の特筆事項と見渡しても、みんな南極原人に変身してしまっているせいかこれといって・・・・・あった!寒い時の「佐藤隊員」。この人は寒さに異常に弱く、この頃になると弱音のはき通しの毎日だった。本来の仕事はライフラインの確保で、車両のメンテナンスやエンジン類の保守であったが、車両はー70℃以下では動かないしボイラーや発電用エンジンの保守点検は当直隊員がしっかりワッチしているので、神経質にならなくてもどうにかなる。

越冬隊は一人一人が各部門の事業主なので「今日は休み!!」とベッドで宣言すれば周囲の事さえ気にしなければなんとかなってしまう。どうやらこの日は当直に当たっていた性もあり、彼は当直業務が終わったら今日は休日と決めたみたいで、午後からは当直日誌記載業務に熱中していた。私は密かに彼の当直日誌のファンで、新着の週刊誌を見るように愛読していた。この自分だけで決めた休日、一般用語では「さぼり」と呼ばれているが、その中でみんなを叱咤激励している文章は当時見てもおもしろかったが、現在見てもおもしろい。原文のまま紹介しよう。

「39次隊の隊員室開き。経験者はともかくとして初めての人はここ一ヶ月ばかり慣れない事の連続で気疲れするだろう。しない人もいるけれど、まあぼちぼち頑張ってもらいたい。ここ連日ー70℃台の寒い日が続く。外にでると瞬時にまぶたが痛くなる。周りの景色など見ている余裕などあまりない。最低気温は記録してもらいたい気持ちはやまやまだが暖かくなってもらいたいのも本音だ。車両バッテリーのチャージは近々必ず行う。それと同時に車の中に放置されているゴミと思われる物は処分してもらいたい。じゃまである」

佐藤君頑張って!! 後たった半年なのだから・・・。

「祝−70℃」

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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