2000.1.16号 15:30配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「そしてドームへ1」

延々と続いた「S16」での荷積み作業も12月28日すべて終わり、明けて29日遥か1000km彼方にあるドーム基地に向けての出発の日を迎えた。
大型雪上車(SM100型)3台と中型雪上車(SM50型)4台の部隊である。大型雪上車は8台、中型雪上車は3台の橇を後ろにずらりと従え、なかなか壮観な眺めある。でもこのコンボイ側に寄ってみるとドラム缶の上に板が束になって積んであったり、あまり整然と積んであるとは言えない状態ではあったが、これも9名の1年間に使用する生活物資と観測器材を36台の橇に、すべて積まなければならないと言うことを考えると(70%は軽油・灯油等の燃料類)仕方のないことである。山内隊長・帖佐艦長の見送りを受けていよいよ出発の時を迎えた。

「エンジンの音ごうごうと・・・」と勇壮な気持ちで出発したが、まもなく私の乗車している「SM105」の車内がなんとなくもやってきたのにきずいた。ぽやぽやとした煙が秋刀魚とバルサンをと発煙筒を一緒に焚いたようなすさまじい煙の渦になるのにそう時間はかからなかった。「ゲッ やばい!!」心の中で「南極観測隊 雪上車原因不明の炎上!!! 隊員1名 焼死」などという見出しが飛びまくり、パニック寸前になったが、そこは元々の本職は海上保安官・・・「いざとなりゃ逃げりゃいいや。」身体は半分、心は全部車外に乗り出し、燃えてしまった雪上車を弁償しろ!と言われても困るので、先頭を走っている副隊長のK氏に「105原因不明の煙が車内に充満してきましたので、一時停車します。」と送ったところ帰ってきた返事は「・・・了解・・・」の一言。

車外に出て見てみると、先頭の103号車は方向転換するどころかそのままどんどん走行し、やがて視界から消えてしまった。後ろを見ても後続部隊は出発せず止まっているし「歩いて帰っちゃかなぁ・・」なんて、その時は真面目に考えた。まもなく今回の旅行で同行している、昭和越冬隊の機械担当の関口隊員が追いついてきて、詳しく調べてみると停車時にアイドリングで回していたエンジンの、不完全燃焼のガスが排気管内に溜まり、それが走行中に高温の排気ガスによって燃やされ煙となって車内に充満したことが判明した。やがて煙も薄れ事なきを得たがそれにしても不可解なのは「・・・了解・・・」の一言を残して地平線に消えていった先頭車。後で聞いてみても「・・きずきませんでした・・・」の一言だけ。

ちなみに前後の・・は沈黙時間を表わし、点ひとつにつき15秒と考えれば大体会話のタイミングが理解されると思う。まあ国籍は日本にあるので日本語は普通に喋る事は出来るみたいであるが、愛想がないというよりも超無口と気がつくのにこの後3ケ月程ついやすことになった。


「雪上車 コンボイ」 提供:山梨大学 竹内 智


S16のへり作業 提供:ドーム越冬隊
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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