2000.1.15号 07:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「南極だー」

そんなこんなでいよいよ南極である。夏期調査に出かける地質調査隊を見送り、最初に昭和基地に入る、昭和越冬隊も見送っていよいよ我々ドーム越冬隊の出発日が来た。行き先はS16という内陸地点。飛行甲板に一列に並んで見送ってくれる、「しらせ」乗組員と固い握手をかわし、ヘリコプターへ・・。

プロペラのピッチ音が変わるとフワリと浮かんでいた。当分は水洗便所・風呂・ビデオとはおさらばである。艦内に居るときはあれほど大きかった「しらせ」も、ちょっと飛び上がっただけで、プラモデルのジオラマの様に見える。「マイルドセブンのCMだな・・・・」久しぶりに見る南極の大パノラマもなんだか今ひとつ胸にせまってこない。ビデオを片手に例の福田ドクターが近づいてきた。
「ねえ西村さん。あれはどこ?下に見えるのは何? あれは?これは?」初めての南極にいささかハイになっているご様子・・。自分の世界に浸っていた私は無愛想に「あれはラング、あそこは西オングル(うーめんどくせー)後はあれも南極!これも南極! 全部、全部南極!!!」哀愁を背中に漂わせ、寂しく離れていった。(今かんがえるとゴメンナサイです。)

途中サービスで昭和基地上空を飛んでくれたが、チラッと視界を横切った位で「何か建物があるなぁ」位にしか感じなかった。これが越冬が終わって昭和基地を見学したときにどうして見せてくれなかったのかわかるのだがそれは1年後に分かったことで・・・。

10数分の飛行でヘリコプターはS16に着陸。ここは昭和基地から16kmほど内陸にあるいわば物資集積場で、大型雪上車や2トンも積載することの出来る橇が置いてある。業界用語で「デポ」と呼称されている。

「S16は風もなく天気の良い日だったら、Tシャツ一枚で作業出来るくらい暖かい所だよ」なんて先輩諸氏の言葉を真に受けたのが大間違い。降りたとたんまだひ弱なドーム越冬隊を歓迎してくれたのは強烈な「カタバ風」と言う南極特有の大陸から吹き下ろされてくる凍り付くような風であった。
隊員諸氏の中にはアドバイスをそのまま取り入れて、支給品の防寒ヤッケも防寒靴も身につけず、なんとスニーカーを履いていったアホもいたが顔を引きつらせ、必死の形相で装備を身につけていた。頭の中によぎったのは「左遷・・それも大左遷」の3文字。 「だまされたワ、これは・・」心の中でブツブツ言いながらもまずは寝ぐらの確保である。快適な空調の聞いている艦内とは違い、ずーっと野ざらしになっていた雪上車の中の寝台がこれからドーム基地に着くまでのマイベッドである。寝具はシュラフが貸与にはなっているが、今回は雪上車にそのまま放置されていたふとんを使うことにした。まあこれがふかふかとはほど遠い状態で、シーツ・カバー類はもちろんなし、どこの誰が使ったのかもちろんわからず低温ため匂いこそ目立たない物の粗大ゴミの日にゴミステーションを捜しても見つからない様なGREATな外観で神経質な人だったら多分一睡もできないどころか火を放って熱消毒をしたくなる代物であった。この時ばかりは寝付きの良さは人には負けない親からもらったアバウトな性格を天に感謝した。

雪上車の立ち上げ・キャンプ地の整備・荷受け作業・荷物の受け入れ準備等々作業をしているうちに
「しらせ」から越冬物資を満載したヘリコプターが飛んできた。大型ヘリコプターで一回に運んでくるのは約2トン。一年間越冬するのに必要な食糧から燃料まで総量約100トンの物資がすべてヘリコプターで運ばれてくる。降ろされた荷物は人力で小さな橇に積まれ、雪上車で牽引する橇にこれ又人力で運び込んで5〜600m離れた所に止めてある大型橇までごとごと運んでいきこれ又降ろすのも、積むのも人力・人力・人力・人力・人力・・・・

ヘリコプターという機械力と橇運びいう原始力が組み合わされたまさにこれが南極だ!!と地平線を指さし竹刀を持って走りたくなる様なシチェーションである。昼食は温かい弁当・スープ・飲み物を
ヘリコプターが運んできてくれる。従来は海上自衛隊のサポートチームだけがこの恩恵に授かっていたのであるが「しらせ」の炊事作業を行っている4分隊の石川曹長と小山調理員長におそるおそるお願いしたところ快く引き受けて下さり大助かりであった。それにしても、わずか20人前程の弁当を、時価数億円のヘリが運んできてくれるなんて・・・仮にこれが営利企業であればあっというまに採算割れで倒産してしまうだろう。日本で遊覧飛行か、チャーターで小型ヘリに搭乗しても、数万円は
取られるから、仮に原価計算をしたとして、ひょっとして毎日私達は、一個何万円もする物をがつがつとろくに咀嚼もせず胃に放り込んでいたのではないだろうか?・・・・・おそろしい・・・
世界で一番高い出前持ち?ヘリコプターの毎日運んできてくれる出来立ての温かい昼食。ほんとに骨身にしみるほどうまいもので南極行動中食った中で、他を圧して断突NO1であった。


「しらせ 南極到着」 撮影:産経新聞社 芹澤 伸夫
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。


PS
ついに流氷の時期がそこまで迫っています。
2000年1月13日の巡視船「そらち」からの流氷の様子もあわせてどうぞ


流氷by2000 提供:海上保安庁 巡視船 そらち
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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