2001.3.9号 10:00配信


流氷画家


 我がまちに「流氷画家」と呼ばれる人がいた。

 先日、仕事の関係もあって、絵を見せてもらおうとそのお宅を訪れた。残されているアトリエに、今もたくさんの作品が飾られていた。

 案内してくれたのは故人の奥さん。いきなり伺ったにも関わらず、一緒に絵を見ながらいろんな話をしてくれた。

 画家が流氷を描き出したのは、終戦後間もない昭和24年。流氷が今のように観光資源としてもてはやされる遙か以前で、むしろ忌み嫌われていた時代だ。作品に描かれている流氷は、幻想的で、時に暖かみすら感じるものだが、人からは奇異に見られたり、「流氷はこんなきれいなものじゃない」と反発を受けたこともあったという。

 それでも世に認められ、東京など全国各地で個展を開くほどになった。晩年は病の後遺症で筆を握れなくなったが、指で絵を描き続けた。

 アトリエには、大小の作品(絶筆作品もあった)に混じって、画家が写った写真や、昔の作品展のパンフレットなどが大事に置かれていた。

 故人の作品だけでなく、記憶を守り続ける姿がそこにあった。

 亡くなってもう10年以上経つ。画家の見る目が正しかったのか、今や流氷は人々に愛される存在となった。

 しかし、皮肉にもこの画家の存在、時代に刻んだ生きざまは、時とともに地元の人々の思いからも薄らぎつつあるようだ。それが妙にさみしくなった。

 流氷の魅力を見い出し、かつ、これだけの画業をあげているのだから、我がまちに絵を常設した美術館ぐらいあっても良さそうなのに・・・。高齢の奥さんが、いつまでも孤軍奮闘というわけにはいかないと思うのだが。(tomy)



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