1999.12.30号 08:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より


by 西村淳

「みんな冷凍食品だー」


昭和基地のオーロラ(撮影者:気象庁「江崎 雄治」)
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。


人間は一年間にどれくらいの食糧を摂取するのか? 
南極観測隊の統計によれば、酒やジュース類の飲料も含め大体重さにして1トンだそうである。したがって調達量もこれに準じておおざっぱではあるが決められていく。
種類が決まったところで重さを概算してみると
(昭和基地)・・・・・約30トン
(ドーム基地)・・・・約11トン
となった。
昭和基地では物資の積み卸し作業もヘリコプターですみやかに搬送されるのであるが、我がドーム基地まではすべて雪上車で引っ張っていかなければならない。それも1000km・・・・・・。
気温は内陸に入るにつれてぐんぐん下がり、すべての物の凍結が予想される。今回の調達ではこの低温が大きな課題となった。しかもすべての食糧をコンパクトかつ軽量化してパックしなければならない。又料理に少しでも携わった方ならご存じだろうがいくら、超高級のステーキが目の前にあってもそれに付随するサラダがなかったら、食が進まないものだし、とろや平目等の高級魚を使っての刺身でも、大葉や、つま、けん等の緑がなかったらなんとなく格好がつかない一品になってしまう。

今回の調達作業でのまず最初の関門は「野菜」であった。書店に行って「無限に続く冷凍庫の中を旅して大丈夫な冷凍野菜」という本を探したが、ない・・・あるわけがない!!!しかたないからホームフリージングの本をめくってみても、「シチューやカレーはパックに入れて小出ししやすいようにしましょう冷凍したら便利な物は大根おろし尚肉じゃがやおでんはこんにゃく類が凍ると・・・・」なんてことしか書いていない。おでんも食いたい、肉じゃがも食いたいのに、キュウリは? 大根は? 芋は? 考えてみるとドームで越冬するのは日本国民1億6000万の内わずか9名なのだから、そんな人を対象にした本を作っても採算が採れるわけがないのである。だが執念で探した結果見つけた!。 

さすがハイテク立国JAPAN!!!
冷凍ジャガイモをまず見つけた。 メーカーは本場北海道「ホクレン」である。それもダイスカット・冷凍メークイン・ベイクドポテト・クォーターカット」等様々な種類が出ている。これは迷わずゲットした。次に探したのが長ネギ、これもありました。小口切りにしたものまである。(メーカー不詳)タマネギも生のスライスやカレー・シチュー・ソース用の色づくまで炒めてパックしたものを発見した。(商品名オニオンアッセ)その他に用意した冷凍野菜はニンニクの芽・アスパラ・白菜・芽キャベツ・コーン・絹さや隠元・ほうれん草・春菊・おくら・にら・かぼちゃ・竹の子・菜の花・レンコン・ピーマン・長ネギ姿・人参等々大体揃った。どうしても見つからなかったのが、大根とキュウリ。ここで必殺の伝家の宝刀 南極食糧調達のプロ「東京港船食」に泣きついた。 

ここの千葉さん、稲田さんとは30次以来のおつきあいで社長でもある千葉さんは、ベンツを乗りこなし、海外留学の経験もある、青年実業家である。又千葉さんとの初対面がドラマチックで初めて極研に姿を現したとき、こっちはジャージにサンダル姿に対し、千葉社長はブランド物(名前はしらない)のスーツをびしっと着こなし、例のベンツでさっそうと登場した。てきぱきと話を進め、風のように去っていったがやがて戻ってきた。「すいません・・・車レッカーで持って行かれてしまって・・・」生き馬の目を抜く東京ではたとえベンツでも持って行かれてしまうのかと今更ながら大都会のおそろしさに身をすくませた物である。

とにかくその東京港船食である。本来は外航船に食糧を積むのがメインの仕事であるが、 船も南極も似たようなものだと、現在の南極観測隊では大手の業者さんの一つになっている。「どうしてもキュウリと大根持って行きたいんだけどなんとかならないべか・・・・」と私の標準語北海道弁を駆使してお願いすると快く引き受けて下さり、何回かの試作を経て無事完成した。登録商標でもしておけば大儲けできたかもと後で考えたが、よく考えると(考えなくてもそうである)私の職業は国民の奉仕者「国家公務員」である。いつか役所を放逐された時、我が愛する家族が路頭に迷わぬよう今回培った冷凍野菜のノウハウは、深く胸の中に仕舞いこむことにした。





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