2000.7.12号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊
「食と生活の記録」より/by 西村淳


「燃料搬送大作戦1」

ドーム基地にとって「燃料」は水と同じくらい貴重な物である。暖房用に消費される量は1日でドラム缶約半分。これは車両が全く動いていないと仮定しても、定期的に減っていく絶対量で、基地がもし火災になったとして、類焼を防ぐため、建物から約150m程離れた地点に橇の上に12本ずつドラム缶を立てて備蓄してある。燃料庫には約40本、約80日分が入れられ手持ちがなくなると、雪上車かブルドーザーで橇ごと建物の側まで引っ張ってきて、人力で転がしてドラム缶を入れ替えるシステムを取っていた。

ここで燃料がなくなり、ボイラーが止まるとどうなるか・・・・・

気温ー70℃が続く中室温は徐々に下がり始め、やがて外気温と同じになるであろう。すべての物は凍り付き、越冬隊も全員冷凍保存状態になり、何万年もその姿を変えることなく、後生の人に見られましたとさ・・めでたし、めでたしにはなりたくない。たとえ醜く老醜の姿をさらすことになって寝たきりになっても、この平成の時代で天寿を全うしたいと多分全員思っていることだろう。

「なら車を動かして橇を持ってくりゃいいじゃねーか」と思われるかも知れない。その通りである。それで万事解決人生順調となるが、問題点が一つだけあった。この時期ドームで可動状態にある車両は一台もなかった。前次隊の引継で車両の越冬は、「ラジエターから不凍液を抜き、バッテリーをはずし燃料も抜き取っておくこと。ー60℃でもマスターヒーターで下を温め逆の手順をしていくと動きます。」となっていた。だがどこでどう食い違ってしまったのか、誰がどこでさぼっていたのか、この越冬準備がまったくなされていなかったため、不凍液はラジエターの中で凍り付き、ブルドーザーも10トンの雪上車も単なる雪上のオブジェとなりはてていた。

実はこのやばい状態、かなり前に明らかになっていた。そんなときでも、ドームの危機管理人・癒し君・心のリーダー「本山隊員」が「大丈夫その内温かい日が来て、絶対車は動くから・・・」と心強い?言葉があり、なんとなく先送りになっていたのであるが、大自然は厳しく、温かい日はついに訪れず燃料は着実に減っていき、そしてドーム越冬隊最大の危機を迎えることとなった。

「雪上のオブジェ」


「解凍作業」

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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