2000.5.7号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「変になってきたぞー1」

この閉ざされた空間で、接触できる霊長類といえば自分を抜かしてわずか8名。外は暗い時間がどんどん増えてきて、気温もー50℃、60℃は当たり前の日々が続くと人間はどうなっていくか・・。越冬中は極めて精神的にもノーマルに過ごしたつもりだったが、当時の当直日誌等を見直してみると、「あっ段々おかしくなってきてる!!」と見られる所を発見したので今回はその話を一つ・・・・・。

4月も半ばに入ったある日、本山隊員担当の雪氷観測で、3mピット作業を行った。これは雪面にスコップで3m程の穴を掘っていって、側面の降り積もった雪の観測をする作業なのだが、ヘルプの設営部隊はただひたすら穴を掘って掘ってほりまくるだけである。観測が終わると、今度はできた穴を埋めていく。立派な観測作業なのではあるが、作業員にとってはまさにオーストラリアの刑務所で行われていた「懲罰作業」となんら変わることのない拷問?にも等しい肉体労働をー66℃の中でこなしさて屋内で一休みタイムとなったまさにその時、福田ドクターがぽつりと一言。「雪の中は温かいと言うけれど、ここはどうなのかしら? ちょっとやってみようかなと思うのだけれど誰か私を埋めてくれる」

この人は一回言い出せばもう心の中で決定していると分かっている越冬隊員達は心の中で「このアホ親父!!」と叫んでいたかどうか定かではないが、西平隊員をおまけにつけて、ただちに「人間生き埋め生首雪面さらし作業」にとりかかった。結果は「冷たい・痛い・ジーンとしてきた・痺れてきた・死にそうだ・早くあげて」首だけを雪面に出したあわれな姿で、医者と共同通信社記者の絶叫が気温ー66℃、無風、たそがれトワイライトのドーム基地屋外に響き渡った。それを見ていて突如こみ上げてきたのが爆発的な笑いである。日本でこんな事をやると、殺人未遂・おやじ虐待・拷問・いじめといろんな罰条が列記されるであろうが、とにかく爆発的な笑いがこみあげてきて止まらなくなった。

雪面に首だけ突き出た2人の男を前にしてひたすら笑いこける羽毛服集団・・。誰かが見ていたらさぞ恐ろしい光景だったのではないだろうか。しめはこの作業のリーダー「本山隊員」「いくら外気温より温かいと言っても雪温は常時ー55℃以下。このままだったら数分で死ぬよ・・。」この一言で我に帰り、今度はひたすらこの2人を娑婆に戻すべくスコップでまたまた雪を掘りまくった。段々みんな変になってきてるぞー!!。


「地獄の穴掘り作業」

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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