2000.3.18号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「サブシェフ盆登場」

日曜日は、当直者が夕食を作ることに話し合いで決まっていた。1997年2月2日、日曜日最初の当直が回ってきた。夕食当番は西平隊員こと「ぼん」。ここの食材はなんでも乾燥しているか、冷凍状態になっているので、前もって前夜か当日の朝に調理隊員に申告して「材料探索ツアー」に出かける事になっている。西平隊員はまだ独身であるが、東京の23区内にマンションを所有し、自炊暮らし。どんなメニューにするのか楽しみに待っていると考えたメニューは肉じゃが・ひじきの炒め物・シシャモ焼き・うにくらげ+何かの味噌汁と純和風のリクエスト。かねてからみんなには「今回の食料の調達では前回の体験も含めてないものはない。フォワグラ・トリュフから食紅・寒天までとにかくなんでもあるから好きな物リクエストしてくれてOK!ただしあくまでも遊びではなくみんなの食事を作るのだから げてっぽい物や、使ったことのない物は×」と見栄を切っていた。

この言葉の中で「ただし」の後がみそで、 うっかり忘れたもの、どうしても代用品の見つからないものはなんとかかんとか、某国会議員の答弁の様に、はたまた因縁をつけるやっちゃんの様に、もごもごかなんとか難癖をつけてごまかした。今回の食料の調達作業では、南極観測事業に食料を搬入する業者さんの中では、超スーパープロフェッショナル「東京港船舶食糧品(株)」の千葉氏・稲田氏から「マニアック!」と称号をいただいていたので、かなり品目・種類には自信を持っていた。でも、ありました。 積み忘れがそれもけっこうたくさん。調理作業をしていると、とちゅうでよく足りない物に気づくことはよくあるもので、日本だとスーパーとかコンビニに走れば片づくのであるが、ここではまったく不可能。代用品ですませるか、使わないかの二者択一を迫られる。

列挙すると、最初から調達しなかった物。
豆腐・生卵・野菜(タマネギ・キャベツ)・瓶ビール・こんにやく&白滝 等の凍ったらだめになるものは最初からパス。

忘れた物
高野豆腐・ふりかけ・こんにやく粉・ポテトチップ。後は秘密・・・。
内緒で一つだけ書くと何かお祝い事があったときなどにあける「ドン・ペリニョン」に代表されるシャンパン類とやや高めの瓶詰めのワイン類。これは免税品をオーストラリアで安く積めるのであるが、 Just Forget! 見事に忘れました。「いやードンぺリ用意してたのに、輸送の途中で割れちゃったみたいだよー。」とその後一年間宴会の度に、紙パック詰めのワインを前にして、言い訳を言い続けるはめに・・・冷や汗、冷や汗大失敗だったのは、ウズラの卵と鶏卵の水煮缶詰。おでんをこの世で2番目に旨い食べ物と認識している私は、寒い寒い南極で熱燗を飲みながら おでんをふーふー言って食べるのが、今回夢見たことの一つだった。冷凍の大根もしっかり持ち込み、こんにゃくには目をつぶり、後はゆで卵があれば何とかなるとカタログで見つけた「鶏卵水煮Mサイズ」を親の敵のように大量に買い込み、望んだのであるが、大失敗。ゆでてあるから凍り付いても大丈夫と思ったのが大間違い。一回凍ってしまったゆで卵、白身は生ゴムの様になり、黄身は真っ黒に・・。とても使えた代物ではなかった。捨ててもゴミ収集車が来るわけでもないのでそのまま棚の飾りになった。今もドーム基地で固く堅く凍り付いているはずである。


サブシェフ 盆

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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