2001.1.8号 07:00配信


南極のドーム基地住人だった西村淳の
アドベンチャークッキング2
【気ままに語る食と人の話】

忘れていたエピローグ3


みんなの目を盗んで、どうにかこうにか日本にFAXを送り、JTBの有能なエージェント「大岩 女史」に頼み込んだ。テンポがドームと日本では、格段に違っているのか、日頃わがままな旅行客の調整に携わっているためか、日数にして二日、受け取り側のタイミングでは、ホント瞬間的に答えが帰ってきた。それもいろいろの教会をピックアップして大きいのから小さいのまで、紹介を写真付きで送ってきてくれた。それをあたかも自分の手柄のように兄ちゃんの前に持っていって「ちょっと時間かかったけれどこんな所でどう?」と大岩女史が見たら「汚ねえヤローだなー!!」と言われる事、必至のコメントで兄ちゃんを少し安心させた。

この少しと言うのがみそで、越冬も後半戦に突入する頃にはみんなの性格は裏の裏までみえみえで、気まぐれであきっぽく、無責任な私の性格はすでにバレバレ状態だった。「ここで手綱をゆるめると、新鮮なビールと金髪のオージーギャル、それに久しぶりに家族に会ったらこの男は間違いなく目の前から消える!!」とれていたらしい。この後、帰路旅行中から「しらせ艦内」、明日はシドニーの前日まで、いや入港してからも、川村の兄ちゃんは私にストーカーの様につきまとい「ここで消えたら笑い事やおまへんで」の嵐を聞かされることになった。

そしでどうなったか・・・・。
空港で新妻のウェディングドレスが別の空港に行ってしまっていたり、「みゆきちゃん」が風邪からくる気管支炎でささやく程度の声が出なくなってしまっていたり、若干のハプニングはあったものの成功した。 それも大成功・・・。教会の結婚式にはなぜか地元の新聞社が取材に訪れ、結構ど派手に報道してくれた。パーテイはセンターレストランを調理場付きで借り切り、私とはるばる1200kmの距離を駆けつけてくれた「店長」事、北田隊員と料理の競作をし、コンドミニアムの前に建っているスーパー「コールズ」の材料をなんとかかんとか、「見た目は派手よ結婚式料理」に変身させ、なぜかブルーのクリームがコーテイングされている、でかでかアイスクリームを「みゆきちゃん」がなんとか「雪印デコレーションアイス クリスマス用」位に飾り付け、目の前の湖にお約束の新郎投げ入れタイムも用意し、ついでに福田ドクターも叩き込んで、盛り上がった。

そんなこんなでまだまだ幕が下りたはずの観測隊モードを持続したまま日本に帰ってきた。コロっと普通のオヤジモードに切り替わってしまったのはなんと床屋だった。昔から通っている紋別市の理容院「イサム」に出向き、虎刈りの頭をチョキチョキやってもらっている内に、ローションの甘い匂いと共に、「西村ドーム越冬隊員」は小さなウインクと共に鏡の向こうに手を振りながら去っていき、普通のお父さんが戻ってきた。その夜に「おかえりなさいJUNちゃん会」で、私が密かに「紋別市のレストランの良心」と読んでいる「トアンクル」に家族と出向き、久しぶりにフイリピンから来ている隠れた名料理人「シェフ・ミゲルさん」のチキンの唐揚げとオニオンリングを肴に、ビールを飲んでいると、今度は心の中にまだ残っていた「毎日みんなに何か喰わせなければならないヨー」モードがパチリと音を立てて「明日からはレストランもコンビニも出前もピザも寿司も何でもあるぞー」モードに切り替わった。今まで、現実に暮らす場所、生きている場所として目の前にあった「南極大陸」がたった一杯のビールで1万6000kmの彼方へ遠ざかっていった。



川村隊員結婚式


新聞の記事




間に合わせ料理2種


注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。





「アドベ1」はこちら

あなたのご意見やご感想を掲示板に書き込んでください。

indexbacknext掲示板




Home
(C) 1999 Webnews
ご意見・ご感想・お問い合わせは webmaster@webnews.gr.jp まで。