2001.5.19号 07:00配信


オーロラ・ハンティング

オーロラが降ってきた



28/Mar/2001/ Yellowknife NWT CANADA
前夜の曇り空は、一転して満天の星空になった。こんな星空を見たのは何年ぶりだろう。寒く乾燥した澄んだ空気の向こうに、つや消しの真っ暗な空。白い星が無数に瞬く。数を数える気は起きない。「瞬く」の意味が分かった気がした。人工衛星が天球を横切っては消えていく。流れ星が絶え間なく見つかる。流れ星を追いかけると、周囲を生い茂る針葉樹にぶつかった。

天球が動いている。自分を中心に、地球を中心に。地動説を唱えたガリレオは偉いなと、なぜか脳裏をかすめた。これが観られれば、もうオーロラが出なくも諦められる。そんな時だった。

西から東に伸びた、煙のようにぼんやりとした白い筋が青く発光しだした。形を変えながら、緑色に変化しながら、頭の上から地平線の間までを、見る間に形を変え光り始めた。最初は一つだけだった筋は、いつの間にか、二つに増え三つに増え、三六〇度いっぱいに広がったようだった。

後ろを振り返っても、頭上に首をかしげても、あちらこちらに見える。一つが消えると、また一つ現れる。思ったより動きが早い。二次元の世界に放り込まれたほのかな炎が、強い風に吹かれながら、それでも火を消さまいと奮闘しているように揺らめいている。


あの時のオーロラを思いだそうとしても、記憶は薄光のようでうまくその糸をたどることができない。夢の中に居たようだった。写真は残っているのに、シャッターを押した記憶すら定かではない。
「オーロラを観れば人生観が変わる」−。本や人伝に何度か聞いていた。でも、人生観は変わらなかった。いまはまた、相変わらずの現実生活の中だ。

でも、オーロラに取り憑かれてしまったようだ。気がつくと、あの時を思いだそうとしている自分がいる。そして、また観に行きたい。ネイティブカナディアンが信じたように、やっぱりオーロラは魔物だった。


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