2000.6.22号 06:00配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊
「食と生活の記録」より/by 西村淳


「ミッドウインター14」

長かったミッドウインターも最後のイベントも遂に最後のイベントを迎える事となった。今夜はフレンチでゲスト役だった隊員が中心となって「炉端焼き」を開催する。何を食べたいかは前もってみんなからリクエストを取り、準備しておいた。焼き物で用意した食材としては

魚  ほっけ・ニシン・鮎・塩鯖・目刺し
   ししゃも・帆立貝・ぶりかま・鮭
   いか・あじ・つぼ鯛・牡丹海老・
   車海老・ロブスター等々 

肉  焼き鳥・手羽先・豚ロース
   骨付きウインナ・鶏もも・タン
   さいころステーキ

野菜 ベイクドポテト・コーン・アスパラ
   オクラ・ピーマン

これらの品物を大皿にずらりと並べおまけとして「本山隊員」がおつまみとして 冷や奴・枝豆・塩辛・漬物・おむすび等を用意してくれた。焼き釜は「佐藤隊員」が一斗缶を半分に切った物に鉄パイプを溶接して台をつけてくれた。これは上々のできばえで使い捨てにするにはあまりにも惜しい代物。以後屋外バーベキューの時の定番として越冬終了まで大活躍をしてくれた。

釜に炭を起こして「炉端焼き」開店である。炭は酸素不足・低温等の悪条件を物ともしないで、大量に遠赤外線を放射してくれるすぐれものの燃料である。以前30次隊の時も、風速10m・ー40℃の悪条件の中で立派にバーベキューの熱源を努めてくれた。越冬前に炭のメーカーに「最悪の条件下でも大丈夫な燃料って宣伝するよー」とでも投げかけておけば、越冬中の炭は全部ロハで提供してもらえたかもしれない・・・とせこい考えが浮かんだかそれも今は遅し。「ハウス本豆腐レシピよりいくらか固め」の冷や奴と「解凍したらそのままOK」の冷凍枝豆での宴会はスタートした。

長い越冬生活の折り返しを祝う「ミッドウインター祭」最後の宴会の始まりだ。問題はその後起きた。超低温下で生活していく建物は外気の影響を少しでも少なくするため密閉式になっている。わかりやすくいうと、冷蔵庫をどーんと大きくしてその中で暮らしていると思えば正解に近くなってくる。最初はもやもやと、次には霧のように最後には洪水のように焼き物の煙が調子よく一杯やっている親父達に押し寄せてきた。

当たり前と言えば当たり前だが、食堂内に取り付けられている小さな換気扇では対処しきれない大量の煙は室内に密度濃く充満し、窒息する前に各隊員の体型別でいけば、サンマの薫製かベーコンになってしまうのではないかと真剣に思ったほど、部屋全体がスモークハウスの形状に変わってしまった。火災報知器は前もってカットしてあったので警報ベルが響き渡るような事態にはならなかったが、ホントに死ぬのではないかと思った。

結局決死の覚悟で、高熱を発している釜を廊下に運び出し、火元と会場を別にすることでなんとか急場は乗り切った。でも寒い廊下で羽毛服を身につけて焼き方の「福田ドクター」と例の月桂冠紙パックで乾杯した一杯は心に静かに染み通り、まだまだ続く越冬生活だが折り返し点をたった今、通過したという実感が押し寄せてきて、数え切れないくらい乾杯をしたがその中でも忘れられない一つとなって刻み込まれた。

「居酒屋の煙った風景」


「居酒屋の煙った風景」


「居酒屋の煙った風景」

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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