2000.3.15号 07:30配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「最初の宴会」

1997年1月29日、越冬隊最初の大仕事「大気観測棟」の落成式を迎えた。この建物、目的は文字通り大気を観測するための研究室兼物置部屋で、8畳程の部屋である。材質は断熱材がはさまれた3m×50cm位のパネルを、横に出ているフックに引っかけて組み立てる仕組みになっている。その方式自体は「技術」の点数が赤点ばかりのメンバーが集まったとしても、数時間で出来上がってしまう簡潔にして、合理的な物で、来る前に極地研の庭で一度仮組みを行ったのであるが、ここは標高3800m酸素も下界と比べて2割程少ないドームである。案の定土台を他の建物と水平にするため、雪運びの作業だけでも「ひーひーぜーぜー」重度の呼吸障害を持っている人に、フルマラソンを走らせるほどのつらいつらい作業となった。かん難辛苦を乗り越えて、昭和基地の本格的な建物と比べると若干、いや相当見劣りするが寝ころんで視点を低くすると、威風堂々とした建物が完成した。なにか一つ仕事が終わったとなればパーテイーである。今回参加した自分だけで決めている大きなテーマに、「好きなときに、好きな形でいろいろたくさん飽きるほど宴会をやる。」と決めていたので、「パーテイーやろ! 宴会を開こう! 鍋をやろう!」と勝手に決めてしまった。

早速材料を調達にこればかりは昭和基地を圧倒する冷凍庫へ。一緒に着いてきたのが当直の川村隊員こと兄ちゃん。ずらりと並んだ食糧を見渡して「へーいっぱいありまんなぁ。せっかくやから何か作らせてもらえまへんやろか」兄ちゃんのテーマは、帰国してから愛妻の「ふみちゃん」が驚く料理を覚えることだそうで、今回はちらし寿司に挑戦となった。せっかく作るのだから、手間はかけても時間はかけず、寿司屋の裏飯「ばらちらし」に挑戦することに・・・。 

電気圧力鍋で炊きあげた御飯に、やや塩味を勝たせた寿司酢をぱっぱっと混ぜ冷凍の柚の皮と、ひねり味で「永谷園お結び山シソ味」をたっぷりと混ぜアクセントに。寿司桶に盛り込み、上に角切りにした醤油と酒に漬け込んだまぐろや鰹、湯にさっとくぐらせて二杯酢に漬け込んだ冷凍あさり・たこ、生の北海道産の帆立貝・北寄貝・イカ・甘エビ・ボタン海老をたっぷりと乗せ、いくら・とびっこをトッピングして冷凍絹さやを彩りに盛ったら、とても素人料理とは思えない華麗な料理に仕上がった。

もう一品は寒い季節にはたまらない鮟鱇鍋。これは切り身にして冷凍してあった37次隊の物を流用することにした。越冬隊用語で「中段」と呼んでいる56×36×29cmの段ボールに一口大にカットされた切り身が ぎっしりと詰まっていた。総重量30kg!。あんこうと言えば肝臓や皮やぷるぷるになっている頭や骨の回りの肉がうまいのであるが、いくら段ボールの中をほじくってもそのかけらも見いだせなかった。全部ひたすら全部身であった。一瞬、肝や皮やぷるぷるの骨回り、要するに旨いところばかり使って、盛大な「鮟鱇鍋」を食っているかもしれない日本国内の誰かを思い浮かべ、逆上しそうになったがよく考えてみると我が隊にとって元はただの物を使っているのだから、ひとまずはあげた拳は懐にしまって、ひたすら身だけの「鮟鱇鍋」を作ることにした。


ドーム基地天然冷凍庫

注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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