2000.1.30号 10:30配信


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第38次南極地域観測隊 ドームふじ観測拠点越冬隊

「食と生活の記録」より/by 西村淳



「基地の中へ2」

雪上車の点検・当面の荷物を持って38次隊が食堂に集まってきたところで、いくつかのグループに分かれて基地内旅行が始まった。案内役の米山ドクターが「雪洞に入りますので羽毛服着て下さい。下の温度は平均ー50℃位ですので凍傷になるかもしれませんから・・・・・・・・」とさらりとおそろしい一言。この時はまだ超低温体験初心者、一ヶ月もたつとサンダルとジャージ・Tシャツ一丁で平気で雪洞に水割り用の氷を作りに降りていくのであるが・・。

まずは全員がまたそそくさと羽毛服に着替え2班に分かれて基地ツァーの開始。居住棟・観測棟・医療棟は、最初のイメージ通り狭い・小さい・暗いと言った物だったが雪洞に入ってびっくり!! 綺麗・華麗・神秘的・といったつたない形容詞では到底言い尽くせないほど素晴らしい光景が眼前に開けた。ウォルトデイズニーのアニメ「アラジン」で洞窟の中にきらめく金・銀・ダイヤ等の宝物が積み上げられてきらめく光をはなつ場面が出てくるが、あれに勝るとも劣らない、いや完璧にこちらの方が勝っている輝く光のオブジエがそこにはあった。基地下にある雪を縦横2m位の大きさで掘り進んであるのだが、それが又素晴らしい!!裸電球の下で雪がキラキラと少女漫画の主人公の瞳のように光って目に飛び込んで来た。

そして雪の結晶が、まるでシャンデリアのように集合体になって垂れ下がっていた。手をふれるとシャラーンと金属のような音を立てて崩れていく。某乳業メーカーの宣伝担当が見たら吹っ飛んでくるような雪印のマークがはっきりと分かる。雪の結晶一つが2cm程の大きさといったら少しでもイメージが伝わるだろうか。途中寄った「みずほ基地」でも似たような光景にお目にかかったが「みずほ基地」のを少年野球とするとこちらはメジャーリーグ・オールスター程の差があった。

この天国のような光景を後にして、次に向かったのが「発電棟」。ここはいわゆる基地の心臓部で、発電用のエンジンが2台おかれているが風呂とトイレもここに設置してあった。風呂は昭和基地のような脱塩フイルターのついたまるで温泉の様な立派な物ではなく、家庭用のユニットバスがぽつんと隅っこに設置されていた。中を覗いて驚天動地! 家庭用24時間循環風呂が設置されているのだが、日本全国の温泉が束になってかかってきたかのような強烈な硫黄臭がモワッと押し寄せてきた。 「フイルターが切れたのでしばらく風呂の水変えていません。 みなさんにこれから一ヶ月ぶりに風呂に入ってもらいますが、風呂のお湯を間違っても口に入れないで下さい。 死にますから・・・。」と案内の米山ドクター。

「ここが大用のトイレです」と指し示したのが、四方板囲いがしてあって、一段高いところにポツンと設置してある便器・・・。 竹竿に赤旗がくくりつけてあって使用中は旗を倒しておくのだとか。 もちろん個室用の鍵はないというよりも扉そのものがない。基地で爆弾投下のできる場所はここだけそれも一つだけということで。37次隊が帰り、38次越冬隊だけになっても、しばらくは朝のトイレタイムの時は便器争奪戦が繰り広げられた。方式ももちろん水洗ではない。「パック方式」と言って連続したしたサランラップみたいのが便器の内側にビルトインされていて、爆撃終了した後ペダルを踏むと、電動でこの連続ラップが動き出して、投下物を包み込んで下の受け皿に一人分ずつラッピングして収納という仕組。それをその日の当直が一日の終わりに取り出して、外に置いてある空きドラム缶にデポすると、瞬間冷凍永久保存になる寸法で・・・ただこのパック方式の欠点は、一緒に小○ができない事で用足しの前には、5m位離れている小用専用のドラム缶、通称「ションドラ」で済ませておかなければならない。慣れるまではこれが結構大変で、座り込んでから「あっ忘れた」てことがしばらく続いた。 「人の前で大○なんてとんでもない!」と思われる人が国民の98%はいるだろうが、慣れというのは恐ろしいもので、このトイレの前に洗面所があるがやがて用を足しながら、洗顔している人とその日の腹具合について、実況中継で話をするのも何でもなくなった。が、帰国してからはまだやっていない。


「トイレ」
注意:写真はすべて国立極地研究所に属します。
個人で楽しむ以外(メディア等への掲載)は禁止します。



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